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①汽車だけでなく恋の始発ともなった⁈好摩駅(啄木文学さんぽ~小説「鳥影」編~)

第1回目 「好摩駅」

小川静子は、兄の信吾が帰省するといふので、二人の小妹と下男の松蔵を伴れて、好摩の停車場まで迎ひに出た。もともと、鋤一つ入れたことのない荒蕪地の中に建てられた、小さい三等駅だから、乗降の客と言つても日に二十人が関の山、それも大抵は近村の百姓や小商人許りなのだが、今日は姉妹の姿が人の目を牽いて、夏草の香に埋もれた駅内に、常になく艶めいている。

好摩駅の描写から始まる小説「鳥影」。この他にも、たびたび好摩の様子が描かれています。

「鳥影」の舞台は夏の渋民。啄木にとって好摩は、照り付ける太陽の日差しと、青々とした草木を照らす様子ががとても印象的な場所だったようです。

霧ふかき好摩の原の 停車場の 朝の蟲こそすずろなりけれ  (歌集『一握の砂』所収歌)

啄木が歌にも詠んでいる好摩。当時は、白樺や、ススキ野が広がっており、その中に、ポツンと好摩の駅舎が建っているだけでした。まだ、渋民駅はなく渋民から約4キロ離れた好摩駅へ歩いて向かっていました。どこに向かうにもこの好摩駅が始発となるのです。

渋民もそうですが、好摩駅周辺は、とても静かでのどかなところです。鳥の鳴き声や、目の前に広がる山々や空に気持ちはおのずと傾きます。今でも周辺は自然に満ち溢れています。啄木は、線路沿いに生えていたオミナエシを手折ったりしながら駅に向かったといいます。

好摩を舞台とする場面の中で、特に印象的なのは学校教師・日向智恵子と画家・吉野満太郎が好摩駅で出くわす場面ではないでしょうか。ある日、偶然にも好摩駅で日向智恵子と吉野満太郎は一緒になり、そこで、初めて二人きりで会話しました。乗車する汽車も一緒、さらには目的地も一緒の二人。この偶然が重なり二人の恋は加速していくのです。物語の最後には、二人でともに渋民を去り、好摩駅から盛岡へ向かうこととなります。啄木は、小説連載最終日で今後も『鳥影』の執筆を続けるなら「吉野と智恵子に焦点をあてて物語を進めていきたい。」と語っています。真夏の好摩で実らせた二人の恋。その続きに啄木はどんな展開を考えていたのか気になるところです。

当館から好摩駅に向かう途中に広がる田んぼ。きっと啄木も同じような道を歩いたのでしょう。

好摩駅にある「こうま」の字。これは啄木の直筆文字から集字したもの。この日、好摩駅に行くと、ちょうどこれから当館に向かう予定の地元の方とお会いしました。元国鉄職員とのこと。

好摩駅内にある啄木歌碑(昭和29年4月建立)木製の歌碑は全国でも珍しいです。当初は、ホーム内にあったそうです。
歌は、「霧ふかき好摩の原の 停車場の 朝の蟲こそすずろなりけれ」(歌集『一握の砂』所収歌)

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